序 章 狂乱の果て

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 カタールが聖地であるなど、真実か嘘であるかなど誰も知らない。 知っているとするならばそれは他ならぬ創世神自身だろう。 だが、聖地を目の前にした聖教徒たちは、国王に激しく反発する。 当時、隣国との争いが絶えず、重税や強制兵役などを施策していたカルデナ皇国内は、僅かながらの光明すらも見出すことが出来ずにいた。 当然、国民は怒り心頭の状態である。 そこで国王がその政治的不満をそらすために使ったのが、宗教であった。 15年前の侵攻戦は、両国の正規軍がぶつかり合い、血みどろの戦となった。 起源が農耕民族とはいえ、カタールの兵士たちは騎馬能力が突出して高く、そして士気系統がしっかりと整っていた。 対するカルデナ皇国の正規軍は聖教が後ろ盾とする兵器―――【魔鉱兵器】を駆使し、屈強なカタールの兵士たちに対抗する。 鉱物資源に恵まれたカルデナ皇国と、資源に恵まれないカタール王朝。 開戦当時は拮抗していた戦況も、次第にカルデナへと傾いていく。 しかし、大きな痛手を負ったのは両国とも同じであった。 そこで両国の疲弊を見かねた当時のカタール王―――アクメネス三世により、両国間に停戦協定が結ばれたのである。 それが第一次宗教侵攻の終りであった。 そして今から5年の昔――― 創世暦852年のこと。 【第二次聖教徒侵攻】によりカタール王朝は、永きの繁栄に終止符を打ち、歴史の舞台から姿を消した。 それが事実上の宗教戦争の終りであったといえる。 国が滅びたと同時に、300年以上もの間この砂の王国を繁栄させてきた民族―――アシュタール人は、一人残らず絶えたという。 これが、狂想の連鎖の始まりとなる。 それを知る者は、恐らく天上から見下ろす神々しかいないのだろう。 .
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