〓平泉

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「加齢臭するんで近寄らないで下さい」 と、師匠に対する言葉とは到底思えない暴言を弟子に吐かれ、 どんより雲の空の下、渋々距離をとって歩いていた芭蕉は、 かなり前を歩く弟子に声をかけた。 「…ねぇ曽良くん」 「…」 「曽良くんってば!」 「…」 「…………このちくわが」 聞こえないと思い、ぼそりと呟く。 「なんです、芭蕉さん」 いつの間にか近づいて来ていた曽良は、 芭蕉の両頬を片手で掴み、骨が砕けんばかりにシメあげていた。大した筋力だ。 「ふぐぅ…っ、き、聞こえてるんひゃないか…っ」 「…で、なんです」 (いつも思うけど、曽良くんて…本当に私を師匠って思ってない言動するな…) 「げほ…っ。あの…私…なんだか体がだるいいんだけど…風邪かなぁ…」 「そうですか」 そう言うと、何事もなかったかのようにスタスタと先を歩く。 「あれぇ!?ちょっ!ちょっと待ってぇ! 師匠が弱ってるんだよっ!?気付かってよ!」 曽良はいつもの無表情を心底面倒臭そうな顔に変えて振り返り、盛大に長い溜め息を吐く。 「なんっ………………なんですか。うっさいですね。 …まぁなんか今日はいつにも増してヘンな感じはしてましたけど…」 「うわすごい溜めたね…。 …て、いつにも増してとはなんじゃい! それじゃ私いつも変人みたいじゃないか!」 「その通りでしょう」 「チクショ―――――!…って…あれ…」 「芭蕉さん?」 只でさえ体調悪いのに絶叫したせいなのか、 芭蕉は意識を失い、そのままその場に倒れた。         続く。
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