〓平泉(曽良)

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曽良が芭蕉の隣に布団をひいて眠ってから暫く経ってのこと。 何やら隣がうるさいと思いきや、芭蕉が掠れた咳をしていた。 喉が渇いたんだろう。 曽良は渋々起き上がると、 机に置いてあった水さしからコップに水を入れ、芭蕉の隣に置く。 「芭蕉さん、水です。起きれますか」 「…ぅー…」 「………無理か」 曽良は少し思案して、何を思ったか自分で水を含む。 芭蕉を半身だけ起き上がらせ、そのまま口と口をくっつけて、水を流し込んだ。 それを飲むのを確認して、もう一度飲ませる。 何回かそれを繰り返し、口元に垂れた水を拭ってやる。 そのまま横たわらせて、布団を掛け直した。 それから間もなく、今度は震え出した。熱はあるが、体は寒いのだ。 「面倒な人だな…」 とりあえず、頭を冷やすものを探す。 手頃な布がなかったので、 芭蕉の荷物の中からぐったりした薄汚いぬいぐるみ――マーフィーといったか――を(勝手に)取り出し、 充分に濡らして芭蕉の額の上に置いた。 「…さて」 熱はこれで良いとして。 布団をこれでもかと乗せても尚寒がってる場合はどうすれば良いのか。 どこかで、一肌で暖めると効果有りと聞いたことがある…が。 誰がするんだ。 もしかしなくても自分がするのか。 …冗談じゃない。 「…。………。……………」 一人悶々としていると、 芭蕉から苦しげなか細い声が聞こえた。 「……マーフィー…くん」 その寝言に何故かちょっとムカついた。 ……なんで自分よりもマーフィー。 「………」 …傍に温かいものがあれば、別に一肌でなくとも良いか。 そう結論づけた曽良は、 「…失礼しますよ」 一応断りをいれて芭蕉の布団にもぐり込む。 温もりを感じたのか、芭蕉は曽良にすり寄ってきた。 すかさず蹴り上げるが、めげずに寄ってくる。 しばらくそれを繰り返し、曽良は諦めて抵抗を止めた。 そして、芭蕉が曽良の体全体にしがみついて寝てるという奇妙な態勢が出来上がっていた。 「……何だこの状態」         続く。
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