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それは当たり前のように存在していた。
そして旅立っていった。
私の幼少時代は、小学校の高学年を迎えるまで、祖父母の家で過ごす事が当たり前の生活だった。
特に保育園の頃は祖父母の家から保育園に通い、祖父母の家に帰ってきた。
小学校の頃には、自分の家とは全く逆で、自分の家よりも遥かに遠い祖父母の家まで帰っていた。
理由は至って簡単で、ただ親の仕事の都合だった。
普通なら寂しい話しなのかもしれないが、私にとっては、当たり前で平凡な生活だった。
祖父母の家には『ちゃみ』というシーズー犬が一緒に暮らしていた。
私に物心がつき『ちゃみ』の存在を意識しだした時、『ちゃみ』はすでに老婆だった。
当時彼女はすでに私を下に見ているようで、私をみると吠えて追いかけ回し、噛みついてきた。
そんな彼女にはすでに歯は無かった。
しかし、それでも追いかけられると怖かった。
噛まれると痛かった。
私はそんな彼女が嫌いだった。
彼女の姿が見えると行きたい部屋に行くことも断念し、彼女を避けて生活していた。
しかし、彼女の旅立ちは突然やってきた。
小学校3年生の夏休みに入ったある朝、祖母が小さなダンボール箱を持って私の元に歩み寄ってきた。
そして、祖母の口から衝撃の一言を聞くことになる。
「『ちゃみ』が死んでしまった…」
私は感じたことのない衝撃を受けた。
今まで敵だった彼女は小さなダンボール箱の中で冷たくなり、私を追いかけ回す様子など全くなかった。
私にとって最大の敵だったはずなのに…
本当に嫌いだったはずなのに…
私の目からは大粒の涙が溢れだし、思わずこんな言葉がこぼれた。
「ごめん『ちゃみ』…」
私の小さな心は、『ちゃみ』を嫌っていた事に対する罪悪感を強く感じていた。
これが、私にとって初めての小さな家族との出会いと別れだった。
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