小さな命 大きな悲しみ

2/2
前へ
/54ページ
次へ
それは当たり前のように存在していた。 そして旅立っていった。 私の幼少時代は、小学校の高学年を迎えるまで、祖父母の家で過ごす事が当たり前の生活だった。 特に保育園の頃は祖父母の家から保育園に通い、祖父母の家に帰ってきた。 小学校の頃には、自分の家とは全く逆で、自分の家よりも遥かに遠い祖父母の家まで帰っていた。 理由は至って簡単で、ただ親の仕事の都合だった。 普通なら寂しい話しなのかもしれないが、私にとっては、当たり前で平凡な生活だった。 祖父母の家には『ちゃみ』というシーズー犬が一緒に暮らしていた。 私に物心がつき『ちゃみ』の存在を意識しだした時、『ちゃみ』はすでに老婆だった。 当時彼女はすでに私を下に見ているようで、私をみると吠えて追いかけ回し、噛みついてきた。 そんな彼女にはすでに歯は無かった。 しかし、それでも追いかけられると怖かった。 噛まれると痛かった。 私はそんな彼女が嫌いだった。 彼女の姿が見えると行きたい部屋に行くことも断念し、彼女を避けて生活していた。 しかし、彼女の旅立ちは突然やってきた。 小学校3年生の夏休みに入ったある朝、祖母が小さなダンボール箱を持って私の元に歩み寄ってきた。 そして、祖母の口から衝撃の一言を聞くことになる。 「『ちゃみ』が死んでしまった…」 私は感じたことのない衝撃を受けた。 今まで敵だった彼女は小さなダンボール箱の中で冷たくなり、私を追いかけ回す様子など全くなかった。 私にとって最大の敵だったはずなのに… 本当に嫌いだったはずなのに… 私の目からは大粒の涙が溢れだし、思わずこんな言葉がこぼれた。 「ごめん『ちゃみ』…」 私の小さな心は、『ちゃみ』を嫌っていた事に対する罪悪感を強く感じていた。 これが、私にとって初めての小さな家族との出会いと別れだった。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加