臆病者

序章：開戦前

　二隻の空母から着艦開始の無電が各機体に送信され、第一エレベーターの前に転落防止柵が立てられる。
　空母の上空を旋回していた機体の中からまず、零戦隊の小隊長機が着艦を試みる。
　ふわりと降りるといった感じで危なげなく第二エレベーターの辺りに停止する零戦。
　搭乗員が機体から降りると同時に衝突防止柵が下ろされ、整備員が機体を第一エレベーターの上に押していく。
　その後に続いて次々に零戦隊の面々が着艦作業を行う。
　彼が乗り込むこととなっている翔鶴の横では瑞鶴にも同じように着艦作業が行われている。
　進入角度を間違えてやり直す機はあるが、オーバーランして制動防止柵にぶつかる機はない。
　着艦した機体は第一エレベーターを使い、格納甲板へと収納されていく。
　艦戦隊の次は艦爆隊、そして彼の所属する艦攻隊の順番になった。
　母艦の上空を旋回飛行しながら着艦の順番を待っていた瑞鶴隊、翔鶴隊合わせて五十機余りの九七艦攻が一機、また一機と着艦していく。