『ぼくの嘘と、君の嘘』~君への告白  和泉 ヒロト

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その9 赤い傘越しに、チカの横顔が見えた。 初めて逢ったあの日のように、チカはキョロキョロとぼくを探していた。 そしてチカは、ぼくを見つける。 いつもと同じ笑顔を見せて、片手を振りながらぼくに駆け寄って来る。 そんなチカを見たとき、思ったんだ。 絶対に、チカを失いたくないって……。 「お待たせっ!すごい雨になっちゃったね!」 チカは、そう言ってもう一度微笑んだ。 ぼくはチカの肩を引き寄せて、ギュッと抱き締める。 頭の上で、ぼくの傘とチカの傘がぶつかって雨粒が弾けた。 渋谷センター街を相合い傘で歩く。 ぼくの傘の中にはチカがいる。 ぼくの肘にぶら下がるようにして……。 センター街の一番奥から狭い路地に入る。 そこには、チカお気に入りのカフェがあった。 狭い階段を上がって、2階席に落ち着く。 そこは、ワザと古びたインテリアを使った、おしゃれな場所だ。 そしてぼくとチカは、ゆったりとしたソファーにテーブルを挟んで向かい合う。 暖かいフレイバーティーで、ぼくたちは冷えた体を暖めた。 「……あのさ、俺……。チカに……謝らなけばならないことが……あるんだ……」 ぼくは勇気を出してチカに、そう告げる。 ティーカップを持つ、チカの手が。 そのとき、一瞬止まった。
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