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その10
「あたしも……ユージに……ユージに謝らなければならないことが……あるの……」
えっ?
ぼくは、予想もしなかったチカの言葉に困惑していた。
「会わせたいひとがいるの……もうすぐ来ると思う……」
まさか……!
「……久し振りだな……コージ……」
そのとき、背中から掛けられたそんな声に、ぼくは一瞬にして固まる。
チカは。
そのとき、顔を背けるようにしてぼくから視線を外していた。
ぼくの向かいに座っているチカの隣に、本物のユージがゆっくりと腰を下ろす。
チカは、ゆっくりとぼくに視線を戻して、こう言った。
「……ごめんなさい……コージ……」
ぼくの視線は、テーブルの上を泳ぐ。
チカは、知っていたのか……。
ぼくが……偽物だと……。
「あたし、ユージが好きだった……」
チカの言葉が、ぼくの胸に突き刺さる。
チカは、やはり……。
ぼくではなくて、ずっとユージを見て来たんだ。
本物のユージだけを、ずっと……。
「ユージとは、何度もパーティーとかで逢ってた……一度逢っただけじゃないの……」
そうだったのか……。
ぼくはチカの告白に、目の前が真っ暗になる。
薄く流れていた店内のBGMも消えて、今はチカの声だけがはっきりと聞こえていた。
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