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その11
チカが、涙を浮かべながらぼくをじっと見つめていた。
ぼくとチカの時間は、一体何だったのだろう?
ぼくは、やはりユージの代わりでしかなかったということなのか?
いや、それは違う!
ぼくとチカは、確かに愛し合っていた。
確かに、愛し合っていたはずなんだ!
だけど……。
こんな状況の中でも、ぼくはそう信じようとしていた。
「コージがユージじゃないって、最初から分かってた……だけど、あたし……」
「……もういいよ、チカ……もう、分かったから……」
ぼくは必死で笑顔を作りながら、優しくチカにそう告げる。
「俺のほうこそ、ごめんな……ずっと……チカに嘘ついてた……俺は……偽物、なんだ……騙しててごめん……」
チカはポロポロと流れ出す涙を拭きもせず、ぼくをただじっと見つめ続けていた。
ぼくは持っていたバッグの中から小さな紙包みを取り出して、ゆっくりとチカの目の前に差し出した。
「これ……ホワイトデーのプレゼント……ユージ、として……」
ぼくは財布から数枚の千円札を取り出ながら、ソファーを立ち上がる。
テーブルに金を置いたぼくは、ゆっくりと店の階段へと向かった。
「待てよ、コージ!」
そのときユージが、強い声でぼくを呼び止めた。
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