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『ぼくの嘘と、君の嘘』~君への告白
和泉 ヒロト
その1
運河を渡って来る春の夜風が、ゆっくりとぼくたちを包んでいた。
それは、少しずつ確実に、ぼくたちの頬と耳を冷やす。
ぼくは、手のひらで自分の冷たい耳を覆うようにしながら、ゆっくりと夜空を見上げた。
「……東京の星って、可哀想だよね」
突然となりに座っていたチカが、そう呟いた。
運河の土手に唯一あるベンチに、ぼくとチカは腰掛けている。
昼間は暖かくなったが、まだまだ夜は寒い、そんな季節だ。
ぼくは、革のコートのポケットに両手を突っ込みながら考える。
……確かに、そうかもな。
星が光輝こうと頑張っていたとしても、結局その輝きは強烈で人工的な灯りに掻き消されてしまうものなのだから……。
そして、ぼくは思う。
それは、まるで今のぼくのようだなって。
「ねぇ、ユージ?何考えているの?」
いつものようにチカが、ぼくに甘えた声でそう声を掛ける。
「うん?いや、別に……何でもないよ……」
ぼくも、いつものように優しく微笑みながらチカにそう言った。
チカとこうして過ごすことだけが、ぼくの唯一幸せな時間だった。
そのはず、だった。
ちょっと前までは、確かに……。
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