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その8
ホワイトデーの夜8時。
ぼくは、雨の渋谷にいた。
激しく降る雨に、傘が激しい雨音を立てる。
そんな雨音が、ぼくの心をさらに不安にさせていた。
チカに、何て話そう……。
昨日の夜から、ずっとそのことだけを考えていた。
もうすぐチカが、ぼくの目の前に現れる。
そして真実を伝えたとき、チカの目には、いったいぼくがどう映るんだろう?
バレンタインの夜。
ぼくに手作りのチョコクッキーを渡したあと、チカはギュッとぼくに抱きつきながら言ったんだ。
「ユージ、大好き!……ユージは、ずっとユージのままでいて……」って。
このまま、ずっと何となく時間は流れて行く。
ぼくは、そんな風に思っていた。
チカとの関係は、このまま何となく続いて行くって。
チカに嘘をつき続けているぼくは、結局は中途半端にしかチカを愛せなかったんだ。
ぼくは、そんな事実を感じながら、そのことから目を背け続けて来た。
そしてそんなぼくは、チカとの関係を重荷に感じ始めていたんだ……。
もし、チカに本当のことを伝えたとき。
チカは、ぼくに何と言うのだろう?
チカは、どんな目でぼくを見るのだろう?
ぼくは、昨日ベッドの中で。
長い時間眠れないまま、ケータイを握り締めながら考え続けていた。
しかし、もう。
そんなことを考えても、意味はないんだ……。
更に激しく降る雨のなかで、ぼくはチカを待つ。
そのときぼくは、人ごみの中にチカの赤い傘を見つけた。
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