第一章:平凡過ぎた超人

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小金井大輝(こがねいだいき)は、ゆっくりと身を起こした。     8月の朝11時。 本来、暑すぎる程に注ぐ筈の日光は天窓からわずかに零れるだけで、大輝の部屋はまるで監獄のように薄暗かった。   大輝は首を2、3度振り、何分変わった事がないか確認する。   いつも通りの汚れた外壁を確認すると、面倒臭そうな顔をしながら、ボサボサの髪を整えるために洗面所に向かった。 19才にしては少し若く見えるその顔が、所々黒ずみの目立つ鏡に映った。       ここは超能力技術研究所、通称「能研」と呼ばれる施設。   戦争で両親を失った未成年者を中心に、全国から超能力者が集められた施設である。 国立の研究機関だけあって、実験研究が進められている。     この小金井大輝も「超能力者」。   だが、大輝の超能力は超能力者のそれと呼ぶには平凡過ぎる。       大輝は、物の音を聞いたり物を見たりすることで、『その物を買った値段』がわかるのだ。 まるで鳥の鳴き声のように、自然に。 値段を見ようとせずとも見えるし、聞こうとせずとも聞こえる。 ただし、それは10万円より値段が下のものしかわからない。 通称名    コインマスター 『金に愛された者』。    その微弱過ぎる能力がきっかけとなり、大輝はここに連れてこられた。 大輝はそのおかげで、研究費と称して食べ物と住む所を与えてもらっている。   だが能研は国立機関。 予算はさてどこから沸いてきたのかと言うと、当然ながら国民の血税が源だ。   そしてこの研究所には、『少しだけ筋力を増大出来る』、『5桁の四則計算の暗算を間違いない』、等、もはや超能力と呼べるかも危うい些細な能力しか持たない者が他にもたくさんいる。 だから人は、この機関を税金の無駄遣いだと非難した。 役に立たない奴等に金を使って何になるんだ、と主張した。   能研の人間は顔を公表されているため、顔はある程度覚えられている。 だから、街を歩けば罵声を浴びせられる。   大輝たちはそんな声に圧倒され、普通の市民にも頭を垂れなければならなくなってしまったのだ。     そんな大輝たちを、人は皮肉を込めてこう呼ぶ。     ──超能力を持ってるなら、もっと人並に驕れよ。   「人並みに驕れ」は√3。       彼らは√3と呼ばれ嫌われていた。image=173280090.jpg
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