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「あれは死者か―――まったく、意味のわからないガキだ。」
そう言って舌打ちしながら鷹夜を睨めば、その視線を遮るようにカルマは前に移動した。
そして司王が手にしている蛍石を取る。
『あの森の魔物は、ミューズ嬢のおかげで凶暴性はない。
誰も襲うことなく、今も昔も静かに暮らしている。』
「ふん……聖女様、ってか?」
その言葉に司王が鼻を鳴らしながら言えば、カルマはゆっくりと頷いた。
『―――そうかもしれぬ。
あれも親に捨てられた哀れな娘。
同じように親を無くした魔物たちに、同情したのかもしれぬな……』
どこか遠くを見つめるカルマの手から蛍石を奪い返すと、司王は他の蛍石も選別し始めた。
「あの森は、さしずめ孤児院って感じか。」
『人間の手が入らない、閉鎖的な孤児院……あの濃霧もミューズ嬢の作り出した物だ。
おかげで彼女が死した後も、未だにあそこで魔物に襲われたということは聞いたことがない。』
「確かにな……」
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