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埼玉県 川口市の奥まった住宅街にその民家はあった。
築七十年は経過する巨大なボロ屋である。
三十代の男が独りで暮らしている。
人見知りのする男であった。
たまに夜中に買い出しに行く時以外、まず外に出る事は無い。
コーモリのような男である。
定職には就いておらず、変死した親の財産で暮らしているという。
生まれ落ちた時から心臓に異常を持ち、恐らくはその痩せ細った風貌(ふうぼう)からか、学校では“蛇”とあだ名されていた。
酷い虐められっ子だったという。
「ああ…気持ち悪い…」
“蛇”屋敷の向かいに住居する河原邸(かわはらてい)の若い女将、寿美子(すみこ)は独特のダミ声で吐き捨てる。
亭主の義雄(よしお)はうんざりした気分を悟られないよう妻に調子を合わせる。
「ん? どうした…」
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