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急加速と急ハンドルを繰り返して、トラックの隙間に車をねじ込む。
「うぜぇよ。ブレーキ踏んだんだろ?」
何度か車線変更を繰り返すと、背後でブレーキの軋む音と同時に、激しいクラクションが鳴り響いた。ミラーに目をやると、派手に飾った馬鹿デカいトラックが、やかましくパッシングしながら迫って来る。
薄くなったコーヒーを飲み干した。食欲は全くない。窓を開け、軽くブレーキを踏む。空のカップと、手付かずのポテトが入った紙袋をアスファルトに叩き付けた。
ひと思いに……
あのポテトのように、俺も車ごと踏み潰してくれた方がマシだと思った。
結局、マンションの俺の部屋には、吉田も他の誰も現れなかった。運送屋の格好をした吉田が、空の段ボールを抱えてやって来たとしても、あの女の死体が片付くというだけのこと。俺の置かれる状況に、たいして差はない。
車載の充電器から外した携帯の電源を入れた。
『Welcome』
そのうざったい表示を三度見て、二度車線変更をすると、ようやく携帯が立ち上がった。メールの新着問い合わせをしながら、留守番電話センターからの着信を待つ。
「吉田……。どうなってるんだ?」
新着メールも不在着信もなかった。状況は、悪い方へ悪い方へ転がって行く。
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