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ドラム缶を耳元で、力任せに打ち鳴らされている気分だった。体内に残り過ぎたアルコールを追い出すために、続けざまにライターを鳴らす。
俺が目覚めると、すぐ横に裸の女が寝ていた。念を入れ、布団をはぐってみたが、正真正銘の女――。
「クソっ!」
俺が呪いの声を上げようと、テレビの音量を上げようと、煙が充満して、部屋の空気が息苦しいほど真っ白になろうと、女が目覚める気配はない。
女の首には、俺のベルトが食い込んでいる。無理もない。
フィルターを噛み潰しながら、必死に頭を回転させる。頭痛が増し、苛立ちがつのった。
誰が、何のために……
俺をハメそうな連中の顔を次々に思い浮かべ、次々に消して行く。候補者は多いが、どれも決め手がない。信じているのは連中ではなく、連中にとっての俺の“利用価値”。
テーブルの上には、ビールの空き缶が数本と、空になったウイスキーのボトル。それにグラスが二つ。一方のグラスには趣味の悪い、真っ赤な口紅の痕が、べっとりと残っている。
「クソっ」
空になった煙草の箱を握り潰す。二日酔いだとは思えないだるさが、纏わりついて離れない。
早く此処を離れろ……
朦朧した頭の中で、俺が俺に囁く。汚物にまみれ続け、生き残って来た蛆虫の直感。
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