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シワの寄ったシャツに袖を通す。ズボンもジャケットも昨日と同じ。頭痛とだるさで、服装など考えていられない。
ベッドに腰掛け、女の首からベルトを外す。赤紫の細い帯状の痣が残る首筋。
「誰に殺られた?」
無駄なのは百も承知で声をかける。多分、この女も俺と同じ蛆虫。開いたまま硬直した口から、安物の差し歯が三本覗いていた。誰かにいいように扱われ続けて、最後にその命を利用されたのだろう。
どこかで少し歯車が狂えば、俺のために金を稼いでくれたかもしれない裸体に、毛布をかけてやる。
「どっちにしても……」
溜め息が混じる。彼女の骸を片付けるのは、俺、だったということだ。ジャケットから、携帯を取り出して開く。充電が切れそうだった。
「早いじゃないか」
吉田の電話の出方が気に障った。おかしい……と、また頭の中で囁きが聞こえる。
「仕事だったんでな」
酒がここまで残ったことはない。
「無事に帰れたんだな? “エデン”を出た後、勝手に消えやがって……」
全てを疑うしかない。吉田は俺が部屋に居ることを知っている。
片手で、女の物らしいバッグを調べながら、吉田の話に適当な相槌を選ぶ。 吉田と“エデン”で飲んだ。その後の記憶を、頭痛に揺れる脳味噌の中に探し求める。
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