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「……で、な……」
バッグには女の素性が分かる物は、何一つ残っていない。ファンデーション、香水、ハンカチ……、注射器。
最悪だ。
吉田の無駄話を遮り、女の毛布をまた引き剥がす。
「何だ?」
「“片付け”を頼む」
用件は手短かに終わる。女の腕や手の指は綺麗なものだった。
「急だな。俺は今から人と会うからな……。昼過ぎになる」
両足の指先、爪と肉の境目に、注射針の痕があった。
「こっちも今から仕事なんだ……」
「忙しいんだな。……で、場所は?」
吉田のその質問が、取って付けたように感じたのが、俺の思い過ごしなら、それでいい。思い過ごしなら……。
「……部屋だ。終わったら連絡してくれ。すぐ出なきゃならん」
「コースケ……何を焦ってる?」
早く部屋を出ろ……
女の首から外したベルトをウエストに回す。部屋を出る以外に、他にすべきことを見つけられなかった。
「悪い。時間がないんだ」
吉田の返答を待たずに電話を切る。頭痛は酷くなる一方だった。体内に残っているのが、酒だけだとは思えない。どれだけ酔い潰れていても、記憶の断片は残っていた。これまでは――。
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