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クローゼットから金の入ったバッグを取り出す。三百だったか五百だったか……数えるのは後でいい。十枚ずつ輪ゴムで束ねた札束の上に拳銃を投げ込む。金と銃だけは、確かに俺を守ってくれる。
部屋を出た。もう二度と戻れないと思いながら。
マンションの地下駐車場に降りるエレベーターの中で、携帯が震えた。吉田。
「コースケ、悪いんだが……、人手が足りなくてな。手伝ってもらえるか?」
これまでに、一度もなかったこと。俺の脳味噌が、少しだけ働き始めた。
「どうにもならないのか?」
「ああ、悪いが……」
「……仕方ないな。こっちの仕事は何とかする。何時頃になる?」
「夕方。そうだな、……四時過ぎには」
吉田にとって、四時過ぎまで、俺が寝ていなければ都合が悪かった……と、いうことなのか?
「分かった。充電ヤバいんでな……。四時過ぎだな?」
俺は携帯の電源を落とした。吉田の雰囲気が、おかしい。が、吉田が俺をハメようとしていると決められもしない。もし吉田なら、俺や殺した女を、わざわざ裸にはしなかったはずだ。俺は、もう女には欲情しない。
それを吉田は知っている。
コースケ……コースケ……
吉田のねだるような声が、一瞬頭をよぎる。
コースケ?
俺は、自分が誰なのか、はっきりとは分からない。
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