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だるさに負け、運転席のシートを倒した。朦朧としながらヤニの味を感じ、自分の鼾を聞いた。いつもの悪夢を見ていた。浅い浅い、不快な微睡みの中で――。
俺とアイツは、同じ施設で育った。親に捨てられた、他の“可哀想な”連中と一緒に。
アイツより一年先に中学を出た俺は、施設に斡旋された塗装屋で、住み込みで働いた。一年後に、アイツと一緒に暮らす……。そんな、吐き気を催すほど青臭い夢を叶えようと、馬鹿馬鹿しいほど、俺は必死だった。
「園長に……犯された……」
寒さの厳しい冬だった。俺は震えるアイツの肩を、抱き締めてやれなかった。汚くてたまらなかった。園長だけでなく、無理矢理に女にされた、アイツさえも。
あの頃の俺は、女の唇の感触さえ知らなかった。
いつものように、俺が喚き声を上げて、悪夢は終わる。跳ね起きた俺は、エアコンのツマミをいっぱいに回した。背中がぐっしょりと湿っていた。
園長を殴り倒すところで、いつも悪夢は途切れてしまう。最悪な場面は、はっきりとした頭で回想しなければならない。それも罰だというなら、構いはしない。
殺す気で何発か殴ると、施設の金庫の扉が開いた。もう何発か殴りつけると、はした金を吐き出した金庫は空になり、園長は意識を失った。俺の右手は醜く腫れ上がり、左手には折れた歯が食い込んでいた。半端者の俺は、園長を殺してやることすら、アイツにしてやれなかった。
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