煌めく恋‐花火‐

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 沢山の人が寺の敷地でわたあめやくじ引きの景品などを持って、夏祭りを輝く笑顔で満喫している。  寺の敷地には約20個の夜店がところ狭しと並んでいて、中心には円を作って盆踊りに酔っている。  夜の静寂に活気を与えるそれには、あの男子学生も参加していた。  しかし、男子学生の姿は夜店にたかっている人混みにも、緩やかでいて胸踊る盆踊りの美しい音色の中にも無かった。  男子学生は敷地内にある人の少ない寺の裏に幼馴染みと座っていた。  幼馴染みは白に桜色をまぶした浴衣をきており、綺麗に纏めた艶のある黒髪はどこかから漏れる光に触れ、紫色に妖しく輝いていた。  二人は手に線香花火を持ち、それぞれの顔を淡い光で照らしていた。  男子学生の頭には隣にいる幼馴染みではなく、桜の下で出逢った女子学生が大半を占めていた。 「告白、しないの?」  幼馴染みは命を削って一瞬の美を放つ花火を見詰めながら言った。  その目は一瞬で消え行く花火ではなく、どこか遠くを見詰めている。 「ん~……。自信、無いんだよな~……」  男子学生もまた遠くを見詰めていた。  男子学生の目にはひらひらと舞い降りる桜の花びらを背景に、ひときわ輝くあの女子学生が写っていた。 「大丈夫だよ。きっと」  幼馴染みは男子学生を見ずに、明るい調子で言った。 「なんたって、私の初恋の人だからね」  そのままの調子で幼馴染みは言った。  それを聞いた男子学生は目を見開き、幼馴染みを凝視した。 「それ……俺のこと!?」  幼馴染みは男子学生に目を合わせて、また花火を見詰めた。  花火はとっくに消えていた。 「うん、そうだよ」  幼馴染みは頬をほんのりと桜色に染めて呟いた。  それを聞いた男子学生は少し考えてから、何かを思い出したように、すくっと立ち上がった。 「そっか、なら大丈夫だな。ありがと、じゃな」  男子学生は顔を燃え盛る花火のように輝かせて、軽い足取りで走り去って言った。  取り残された幼馴染みは走り去る男子学生の背中を見詰めていた。  幼馴染みはまた線香花火を手に取り、火を灯した。 「振られたら、許さないからね……」  幼馴染みの目からは溢れでた感情が涙となって零れ落ちていた。  
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