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銀杏の木から舞い落ちる葉は、黄色い絨毯となって地面に敷き詰められていく。
銀杏の葉もまた、地に恋をしているのかもしれない。
そんな銀杏の葉のような恋心を持った青年が、その学校内で一番の大きさを誇る銀杏の木の下に、あの女子学生を呼び出していた。
桜の季節に出逢った女子学生を。
黄色い葉が舞い落ちる中、男子学生は緊張した面持ちで、女子学生は視線を合わせずに俯いて、相対している。
男子学生の心臓は爆発しそうなほどに激しく脈を打ち、頭の中では、家で呪文のように何度も呟いた言葉がこだましている。
「あのっ」
男子学生は意を決したように言った。
女子学生はずっと俯いている。
「ずっと、ずっと好きでした。俺と付き合って下さい」
男子学生は頭を下げた。
本当はもっと言いたいことはあったのだが、やはり本番は違うようだった。
女子学生は俯いていた顔を上げて、男子学生を見詰めた。
その目は、いつものぶっきらぼうな態度からは想像できないほどに弱っていた。
「その……。すごく、嬉しいんだけど……。私、あなたとは、付き合えません。ごめんなさい……」
女子学生は慎重に言葉を選び、男子学生の決死の告白を断った。
そして女子学生は頭を下げ、背中辺りまで伸びた髪をひらひらと桜が舞い降りるように靡かせて、その場から立ち去った。
残された男子学生は一度、空を見上げ、ゆっくりと銀杏の木に背中を預けて座った。
そして黄色い絨毯に透明の染みを作った。
男子学生は静かに膨れ行く感情を涙に変えて、辺りに小さな嗚咽を響かせた。
――大丈夫だよ
男子学生の耳に幼馴染みの言葉が蘇った。
――なんたって、私の初恋の人だからね
男子学生の嗚咽は次第に激しさを増し、涙は次々と零れ落ちた。
「大丈夫じゃ……なかったよ……」
男子学生の言葉は彼女に届くことなく、舞い落ちる銀杏の葉たちに吸い込まれていった。
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