第四話 兆し

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「間抜けは余計なのよ性悪貴族!!」 すぱーん!! 「ーつっ!」 あたしはキルシュの頬を平手で殴った。 貴族の坊ちゃま関係なし。 「あ…」 キルシュの左頬が真っ赤だ。 やばいお偉いさん殴っちゃったよ。 「わわっキルシュごめん!その、痛かったよね腫れてるねどうしよう…」 あたしは挙動不審になりながらキルシュの左頬に手を添えた。 「触らないで」 ぱしっ。 軽く手を払われた。 キルシュが俯いた。 やばい。 あたし生きてここから帰れるのか!? 「あのっ、キルシュごめん」 あたしはペコペコ謝る。 「…」 キルシュは相変わらず黙ったままだ。 すると、 「…驚いた」 「…キルシュ?」 上目でキルシュの方を見ると、平然とした顔で 「人に叩かれたの初めてだよ。」 はぁ? 「は…?」 あたしが目を丸くしていると、 「君、やっぱり面白いね。…今度ボコボコにしてあげる」 にっこぉ。後ろに悪魔がいるみたいに背筋が凍った。 「ひ…」 「なんて冗談だよ。…じゃあね」 ひらひらと手を振り、キルシュが去っていく。 「え…?」 なんだよ。 ヒヤヒヤするじゃないか。 「い、生きて帰してもらえないとおもった…」 ほっと安堵のため息をついて、あたしは髪留めを見た。 赤い、大きなクリップ。 アイツが届けてくれたもの。 「…ほんと、わかんないやつ。」 あたしはぼそりと呟いた。
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