第四話 兆し

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ざく、ざくっ。 木の枝や落ち葉で歩く度に音がする。 明るさが増してきた。 もうすぐ学校の時間かな… 「いそごっと」 走って出口を目指す。 その時。 ザシュッ。 「…え?」 何かに脚を斬りつけられて、あたしは無様に地に転がった。 「った…」 スカートとロングブーツの間、太ももに切り傷の様なものが出来ていた。 血が滲んでいる。 「な、に…?」 あたしは体を起こして、前を見る。 そこにいたのは… 獣、いや、獣型の魔物だった。 茶色い、長い毛に覆われ、開いている口からは鋭い牙が見える。 かなり興奮しているようで、荒い息の音がしっかりと聞こえた。 「なんで、こんな所に!!」 右腿に巻いていた短いベルトに吊っているポケットから、ナイフを取り出す。 鞘は腰に下げたポーチにしまって、戦闘態勢に入る。 距離を取り、ゆっくりと横に回り込む。 本当は剣の方がいいのだけれど、あたしにはまだ重くて充分に扱えない。 「…ふっ!」 息を吐くと共に、背後から素早く突きをかます。 「グギャアアッ!」 魔物が悲鳴をあげ、怯んだ。 その隙にナイフを抜き、更に切りつけてから後ろに後退、また距離を置く。 そしてあたしは、習ったばかりの詠唱短縮可能な簡単な魔法を唱える。 「理に属する者。我の命を聴きうけよ」 すう、と掌が熱くなった。 「第三の術、火焔!」 あたしの手と言霊を介し、マナを炎に変換する。 ギュルギュルギュルッ。 炎が渦巻いて魔物を囲う。 「ギャアアアア!」 炎が天空に舞い、弾けて消えた。 魔物の姿はない。 「ふぅ…倒したみたいね」 一息ついて、あたしは、落としたままの剣を拾った。
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