価値

4/5
前へ
/10ページ
次へ
「先輩はいらない子なんかじゃないですよ」 「けど、親に言われたら」 「今自分で気にするなって言ったくせに」 「それはそうだけど、それとこれとは別だよ」 「例えそうでも気にしちゃ駄目です」 「そんな簡単に、」 「少なくとも、僕には必要な人なんです」  二人とも動きが止まる。 「僕には必要なんです。先輩のお姉さんでも友人でも両親でもなく、先輩が必要なんです」 「あ…」  僕が何を言いたいのかを理解したらしい先輩はクスリと笑った。 「良いじゃないですか。自分の価値があてにならなくたって。他人の評価なんて理解できないものです」 「私が付けたとしても?」 「さぁ…」  と、僕は肩をすくめた。 「あ、逃げた」  吹き出した僕につられて先輩も吹き出した。そのまま二人で笑い出した。何が面白いのかは分からなかったけど。 「好きですよ。そういう風に笑う先輩は」  ピタリと笑うのを止めてしまった先輩は少し恥ずかしそうで、顔が赤いのはたぶん夕日のせいじゃない。 「やっぱり君は格好いいよ」  なんて言う先輩に、 「先輩は可愛いですよ」  なんて言い返した。  とにかく、何かに左右されない自分を持つ事が大事なんだと思った。  でも、それだけだと寂しいから、僕らは一緒にいるためにお互いに価値を付けた。  ほかの何かに左右されないために。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加