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いつものように笑いながら彼はそう言った。逆光に目を細めながら彼を見る。
「もし、おまえが失敗しなくても、アンカーが転ぶかもしれない。その可能性はあっ
ただろう?」
「そりゃ確かにそうだけど…結果として失敗しちゃったし…」
「おまえ、誰かに咎められたか?」
彼に問われてはっとする。
言われてみれば、誰も私を咎めたりはしなかった。
「ドンマイ!」「次、がんばって!」「気にするな」
次々とリレーメンバーから掛けられる声には、私を非難するものなどありはしな
かった。
むしろそれは私を励ますためのものだった。
「おまえが失敗したところで、誰もそれを咎めようとはしないし、これから先咎める
こともない」
その通りだった。私は自分一人で罪悪感に苛まれていただけだったのだ。
どうして彼はそれが分かったのだろうか。
思えばいつだって彼は何かを見通したり、真理を分かっていた。
彼は、今日もいつものように良くわからない教えを説き始めた。
「おまえの失敗は失敗ではない。わかるか?」
「わっかんない」
即答してしまった事を後悔したのは、彼がキョトンとした瞬間だった。だが、次の
瞬間にはまたいつもの笑顔に戻り、
「んー。つまりな…世の中失敗したって良いんだ。失敗から学んで次でも次の次でも
良いから成功すれば良い」
と言った。
うーん…。あれかな。良くわからないのは私だけだったりするのかな?
失敗したって大丈夫、ってのは理解したけど、やっぱり失敗はするべきじゃないと
思う。
「ていうか、失敗しない人はそういう事を軽々しく言うね」
なんて皮肉を込めてそう言いながら、苦笑してみせる。
おや、どうしたことだろう。また彼がキョトンとしてるじゃないか。
「おまえ、俺が失敗しない完璧超人だと思ってる?」
「違うの?」
「当たり前だろ」
頭脳明晰スポーツ万能で超カッコイイ完璧超人というイメージが焼き付いてしまっ
ていた私にとって、その一言は驚愕に値した。
こんな人が幼馴染というのは、実に誇らしいことであるが、こんな人が失敗などす
るのだろうか。
「あのなぁ。完璧超人なんていないんだよ。わかるか?どんな天才でも失敗はするも
んだ」
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