終る夏

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大学に到着し、最初の講義を受ける講堂に入った。 びくびくしながらちぐさの姿を探すが見当たらない。 安堵のため息をついて適当に席を選び、カバンを置いたところでドンと強く背中を叩かれた。 (うおおおおおおおおぉ!) 上げそうになった悲鳴をなんとか飲み込み、恐る恐る振り返る。 「おおおおおおはよう」 振り返った先には、先ほどのゆゆ同様、ゆで上がったように顔を真っ赤に染めたちぐさがいた。 「おは――――」 「昨日のことなんだけどね!私、全然覚えてないの!」 挨拶を返そうとする俺の言葉を遮り、固い表情でちぐさが言う。 「それはもうさっぱり!全く!ちっとも!これっぽっちも覚えてないの!」 「そ、そうなんだ」 「そうなの!本当なんだからね!」 話しているうちに緊張が解けてきたのだろうか。 だんだんと顔色も表情も普段のちぐさに戻ってきた。 それにつられて俺も段々落ち着いてきた。 「昨日は普通に飲んで、普通にカラオケ行って、普通に解散したよ」 「そ、そっか」 「うん。そうそう」 コクコクとうなずきながら念を押す。 恐らく覚えているのは間違いないだろう。 だが酒の席で、酔っ払ってしてしまったことだ。 言わば事故と同じ。 そろなら覚えてないということにして、無かったことにしてしまうのがいいんだろう。 二人でうんうんとうなずき合いながら暗黙の了解が出来たことを理解する。 これでもう、あの話は闇の中に葬り去られるのだ。 これでもう変に意識することも―――― 「そう言えば……」 ん? 急に何かを思いだし、意識せずに口から出てしまったかのような呟き。 ポッ……と、ちぐさの頬が朱に染まる。 「意外と可愛いのね、アレ」 「いやああああああああああああああああああああ!」
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