75531人が本棚に入れています
本棚に追加
/636ページ
せっかくの温かいコーヒーに手も付けず、取り扱い説明書とにらめっこをしていたゆゆが顔を上げた。
「なんとなく分かりました。涼夜さん。よ、良かったら番号教えて頂けませんか?」
遠慮がちに尋ねてくるゆゆに、俺はもちろん笑顔で頷く。
「もちろんOK!赤外線登録のやり方分かる?」
「ちょっと待って下さい」
俺の返事を聞いたゆゆは嬉しそうに微笑むと、再び取り扱い説明書を開いた。
「えーと……。ありました!大丈夫です」
携帯を開き、取り扱い説明書と見比べながら操作を進める。
「お待たせしました」
準備を終えて待っていた俺に携帯を近付ける。
センサー部分を合わせて操作を行い、正常に終了したことのメッセージを確認した後、携帯を離した。
「あっ!電話帳に涼夜さんの名前が載りました!」
はしゃぎながら画面を覗き込み、確認している。
恐らく、まだ俺の番号しか登録されていないのだろう。
「えへへ。涼夜さんは私の初めての人です……」
他人が聞いたら誤解を招きかねない台詞を口にしつつ、携帯を操作している。
もう、その言葉だけでご飯三杯おかわり出来そうです!
鼻の下を伸ばしていると携帯が鳴った。
「……もしもし?」
通話ボタンを押して電話に出る。
「もしもし、涼夜さんですか?私です。ゆゆです。へへへ」
携帯から聞こえる声と、正面から聞こえる声が重なる。
その可愛らしい声が、少しだけ耳にくすぐったい。
「いったい何をやってるんだか……」
少しだけ早くなった鼓動を隠すようにおどけつつ、電話を切って苦笑する。
ゆゆはそんな俺を見ながら楽しそうに笑っていた。
その後は、少し他愛ない話をしてから家路についた。
最初のコメントを投稿しよう!