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視界が薄暗くなったな、とは思ったさ。
太陽の光が雲に遮られたんだろう。誰だってそう思うハズじゃないか?
そうさ、俺は正しい。
きっとこのあと口づけを交わし終わると共に空は再び晴れ、ドラマティックに俺と彼女を照らしつけるんだ・・・なんて事を考えていたのだ。
・・・が。
実際に起きたのは、俺が想像もしなかった事態だった。
俺がゆっくりと彼女に唇を近付け始め、あと少しというところまで近付けた時だ。
彼女が妙に怯えた顔をし、硬直しているではないか。
一瞬、俺に原因があるのではと懸念したけれど、彼女の視線は俺を捕らえているわけではなさそうだ。
んじゃ何よ?
彼女の視線は、俺の頭の先を向いていた。そして俺がそれに習った時、俺は愕然とした。
「んだよアレ・・・」
開いた口がなんとやら。体感時間が一瞬停まったように思えた。
―――空が、割れてる。
いや、ホントに。そんな風に形容するしかないくらいに素晴らしく割れている。蒼い空と白い雲しか無い筈の今朝の空に、なんと漆黒のヒビがはいっていた。
そしてそのヒビが、びきびきと音を立てて割れていっている事に気付く。
あ、それと内気な彼女があうあう言ってパニクってる事にも。
そして俺が、異常な現象と彼女とを前に取り敢えず逃げるかと決心した瞬間であった。
「っ・・・!!」
刹那、俺は彼女を抱えたまま尻餅を付いていた。
空の一部が大音量の轟音と共に崩壊したからだ。
空は、ぽっかりと黒い穴が穿たれた状態となった。
そしてもう一つ変化があった。黒い穴の縁に、内側から何かが引っ掛かる。
あれは・・・
(人の・・・手か?)
そう思った矢先。
「よいっ・・・しょ!」
可愛らしい掛け声と共に一人の女の子が黒い穴をよじ登り、縁に立つ。
その女の子は薄いピンク色が特徴的な髪を訳の解らないような複雑な編み込みで束ね、その小柄な身体に見慣れない服を纏っていた。
そして未だア然としている俺のほうに目をやり、唐突に叫んだ。
「君が本条冬子(ほんじょう ふゆこ)ちゃんだよねーーー!?」
そして俺が「ちょ、まっ・・・!」と静止するより早く。
―――飛び降りた。空から。
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