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次の日。
昨日気絶してしまった彼女は、今日は学校を休むみたいだ。メールで連絡があった。
リビングに降りて行き、テーブルに目をやる。「今日は遅くなります」とだけ書かれた紙の上に、ラップに包まれた五つほどのお握りがあった。
―――母さんだ。
デザイナーとして働いている彼女は、もう30を過ぎているというのに若々しい容姿をしている。昔は自分の母親が綺麗だと、ひそかに誇らしんでいたものだ。勿論今もだが、そのくらい彼女の容姿は端麗であった。週に休みは一回、帰ってくるのはいつも深夜という心身共にハードな生活をしているのに、よくもあのルックスを維持できるものだ。きっと俺がそこそこの顔をしているのも、彼女の遺伝子が入っているからなのだろう。
だから、俺は色々な面で彼女にとても感謝している。簡易的なものではあるが、忙しいにも関わらず毎日欠かさず何かしらの朝飯は作っているし、小遣いだってきっちりくれる。不満など何も無い。何も無い・・・けど。
―――けど、もう少し・・・さ。
お握りの包みを開けようとして、止めた。
「・・・て、何やってんだ。」
朝からブルーになる必要が何処にあると言う。包みを再び開き、中身を思いきり頬張る。口の中一面に、多少苦みのある酸味が広がった。梅か。
俺の人生は、今のままでも十分薔薇色じゃないか。何を不満に思うというのか。
―――そうさ、俺はハーレムを・・・!
梅に背を押され、長年の決意を再び胸にしたその時だ。家の呼び鈴が鳴る。
「んくっ。はいよー」
お握りを腹に押し込み、玄関へ向かう。途中、時計に目をやった。いつもより少し早い。
「誰だろ・・・」
俺は不思議に思いながら玄関のドアを開けた。
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