虚像-part a-

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 間に合わなかった。既に番組は始まっている。くそ、俺に時を止める力があったらこんな切ない感覚を味わなくてよかったのに。ビデオが出るだろうがそれは邪道だ。今、見たかったんだ。  と、まぁテレビにかじりつく俺はテレビっ子。そこら辺はケセラセラさ。画面に映し出される人物を見る。いつ見ても笑える顔だ。本当に馬面だよな。なんてたっけ、そのまんま西?北?南?東?まぁ南東でいいや。  いきなり臨時ニュースが入る。画面の上に流れるテロップ。それは気になる話題だった。また自殺が起きた。  テロップには楠木市で伊坂渚さん十七歳が舌を噛み切り自殺、と流れていた。吐き気がする。嘔吐感をかみ殺しなんとか体調を落ち着かせる。また誰か死んだ。  不意に声を聞いた。   ―――オマエガ、    コロスンダ―――    急に寒気が襲ってくる。ナイフを首元に突き付けられる感覚。それは最近思い出した恐怖という感情。   ―――ハヤク、     コロセ―――    頭が沸騰する。俺は人を殺すなんて事できない。そう自分に言い聞かす。しかし、声は止まない。   ―――相手ハ     ヒトカ?―――    問うまでもない人に決まっている。そう願いを告白する。そんな願いを声は蹴散らす。   ―――マサカ、    アレハ異形ダ―――   「だまれ!」  誰もいない部屋で吠える。声は消え残ったのはテレビの音声だけだった。時間は既に十一時、シャワーを浴びてもう寝る事にしよう。汗だくでもうテレビを見る気分にはなれない。     
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