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その後、屋敷から出た。終始送迎をしてくれた黒い妙齢の男。実は名前を知らない。この男は尋ねれば答えるが自ら語ろうとはしない。別段気になるわけではないがかなりミステリアスだ。
ふと、別れる前に話して見ようと思った。そうして今、門の前に立つ自分とそれを見つめる男。
話題がない。ていうかどんな人なのかも知らない。頭を掻いて話題を探そうとしてみたところ、驚くことに男の方から口を開いた。
「明日は満月です」
「あ、ああ……そうっすね」
見上げれば既に黄金色に染まる空があった。
「あの、いつからここで働いてたんすか」
問いただして、詰まらない事を聞いたとやっと理解した。まじ恥ずかしい。
「私は生まれた時からここで巴様をお世話させて頂いています」
「生まれた時からですか」
「ええ、私の義父も巴様に仕えておりました」
驚いた。やばい驚いた。しばし沈黙。あまりの事にフリーズしてしまう。
有り得ない。生まれた時から?義父も巴に仕えた?意味がわからない。考えるがキャパオーバー。対処し切れません。
「私たちは代々巴様にお仕えしてきました。今もこれからも」
決めた。もうこれ以上の追及はしない。なぜなら恐いから。なにが恐いって巴もそうだがこの男も相当恐い。
もういいと目で伝える。男も意を解したようでそれ以上何も言わず一礼し屋敷に消えて行った。
屋敷を眺める。この屋敷には何か魔力を感じる。郊外の大きな山の深層部に建つこの館はかなり存在がある。なのに噂にも心霊スポットにもならない。存在が希薄過ぎる。
はっ、と我に帰り時間を見る。ヤバい、もうすぐ観たい番組が始まる。全力で山道を駆け下る。もう全く時間がないんだ走るしかないよね。
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