わたしをみてくれるひと

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彼はただ、もう一度「  」をみたいだけなのだ まだ暑さが残る九月 雨が降っていた 偏頭痛持ちの彼が気になる また寝込んではいないか ――うなされてはいないか “交通事故にあったらしい。しかもその事故で――――” 二週間ほど前に知らされた事実 怖くて、彼をみたら思わず泣くかもしれない そう思うと彼には会えなかった 「昨日から自宅で安静にしているらしい」友人がそっと教えてくれた 「会いにいってやれ」とも言われた ノックをしてみる 「開いてるぜ」 いつもと変わらない声 無言でドアを開けると、綺麗な空の色をした目を持つ彼がこちらへ振り向いた いつもと変わらない、聡明な表情 「久しぶり」 「ああ、――お前か」 少しはにかんだ、年齢相応の顔をみせてくれた 「遅かったな。お前で最後だぜ?」 少し痩せたのかもしれない 彼を幻想的に魅せていた白い肌も、今はどちらかというと青白くなっていた 「―――音楽、きいてたのか?」 彼の好きなクラッシックが微かに流れている 「ああ、暇で困っている。家からも出れねぇしな」 叫んでしまいたかった 思わず彼を強く抱き締める 「――――」 「また、くるから」 「――――」 「明日も、くるから――」 「逃げねぇよ」 空色の目は、真っ直ぐ俺を視ていた 自分の部屋のベッドに倒れこむ よく彼の前で泣かなかったと、自分で自分を誉めてやりたい いや、泣きたいのはむしろ彼の方だろう コンポに電源を入れ、音楽を流す 彼の部屋で流れていた同じ曲 窓の外はまだ明るかった 彼の目と同じく美しかった 涙が溢れる 止まらなかった あの愛してやまない美しい目が、もう彼に暗闇しか与えないということは紛れもない真実だった
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