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始まりは、半年前の事だった。
菓子メーカーの営業マンになって3年目の春。得意先まわりから帰ると、会社の駐車場に彼女がいた。淡い桜色のスーツが、季節感を醸し出す。
姿勢が良く立ち姿が美しくて、一瞬マネキンかと思うほど完全体のスタイルで、俺を見つめて微笑む。
「誰だろう、会社に来客か?」
不信感を感じながらも、その美人に近付いて声をかけようとした。
「覚えてますか? 私のこと」
覚えてるかだって。こんな美人は、普通忘れないだろう。でも、記憶に無いぞこの顔には。
「失礼ですが、どこかでお会いました?」
「やっぱり、覚えてませんよね。私、吉野 麗です」
ヨシノレイ、よしのれい、吉野 麗……
その名前には覚えがある。でも、顔とは一致しない。
俺の知ってる吉野 麗は、高校から大学までバイトしてたファミレスにいた。確か、巨漢で1個下の女の子だ。
でも、一応身長は同じくらいだな。あの子の顔を痩せさせたら……
「麗ちゃんって、あの麗ちゃん? ファミレスの」
「はい。あのデブの麗です……」
そういえば声は麗ちゃんだ。でも、4、5年前の記憶だ。正直、信じられない。
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