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「おはようございます」
いつもの彼女にしては妙に礼儀正しいその挨拶がどうも引っ掛かったとでも言おうか、何故か身震いがして僕は朝食を準備する手を止めた。
「おはよう」
応えて振り返る。彼女は既に薄手の白いブラウスに着替えており、長い黒髪は綺麗に梳かしてある。肌は澱みが無く赤ん坊のよう、漆黒の瞳は僕の視線を捉えるとふっくらと優しい三日月型をとった。
「いったい、君は誰?」
頓狂な問いかもしれないが、そうせずには居られない程の変わり様だった。いつもの彼女といえば、よれよれの寝間着に髪はくしゃくしゃに乱れ、浮腫んだ顔には青黒い隈が必ずといっていい程浮かんでいた。それが今日はまるで別人、生命力に溢れ生き生きとしているように見える。昨夜眠りに就いた後に何があったというのか。
彼女は微笑んだまましばらく黙っていたがやがてその笑みを保ったまま口を開いた。
「……死にました」
カシャン、という音と共に野菜サラダの入ったボウルが床に落ちた。それは僕が抱えていたものだった。
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