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そのテーブルの上の彼、「志磨遼平」は、ヒョイとステージに降り立ち、歌い始めた。
確か、あの時の歌は「ロマンチック」だったと思う。
その時にはまだ音源が無い新曲を多めにやっていて、セットリストは殆ど覚えて無いけど、確か「MAYBE」も歌っていた。
その時は顔を全部覆い隠すくらい、前髪を伸ばしていた志磨さんが、髪を掻き分けながら歌う。
目の周りを黒く塗っている。ラメも塗っているのか、照明が当たる毎にキラキラ光った。
「メイビー 君はもうきっと
メイビー 夢の中かしら」
こんなに美しい人間がいるのか。世界には。
すぐ目の前に、そんな人間がいる。
あっと言う間に演奏は終わったが、観客のアンコールに答え、またステージに立つ彼ら。
「世界のトップ」だ。
決して多くは無い、けど殆ど満員の客が、一斉に拳を上げる。私も、拳を上げる。
「世界のトップで!
世界のトップで!」
志磨さんが観客側に来た。何かと思ったら、客に肩車してもらってた。
こりゃ、確かに世界のトップだ!!
名残惜しくも演奏は終わり、客は次々に帰路につきはじめた。
私達も帰ろうと、出口の階段を上ると、そこに、毛皮のマリーズのメンバー達がいた。
勿論、志磨さんも。
握手をお願いしたら、にこって笑って、強く強く握手してくれた。
でっかい、暖かい手だった。
私は今でも、あの光景を鮮明に思い出せる。
あの、テーブルの上の、
ロ ッ ク ス タ ー
『 悪 魔 』
の姿を。
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