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「んで?悩んでんの?」
竹之内は、缶コーヒーを飲みながら聞いてきた。
外灯の明かりに照らされた夜道を、男2人で歩いている。
ちなみにコイツが飲んでいるコーヒーは、俺が買ったものだ。
まさか泣いて頼まれるとは思わなんだ。
「あ~、留年のことなんだ」
竹之内の歩みが止まり、その表情が固まった。
「十夜……そんなに馬鹿だったんべるとぉぉ……」
俺のドロップキックを食らい、竹之内は真横にふっ飛んだ。
「誰のせいだ誰の!!」
痙攣して起きない竹之内は置いて帰ろう。
俺は歩きだした。
ため息をつき、夜空を見上げると星が雲に飲まれていた。
(明日は雨かな……)
だが、雲に負けず、月は光をくれる。
その光は淡く、包み込むような光だ。
関係ないが、俺は夜が好きだ。
「んで、どゆこと?」
追いついた竹之内が話してきた。
「お前らの道連れ食らったんだよ……」
ため息もついた。
竹之内はバカだ。でもそれは、相手を怒らせるためのバカではない。
楽しませる、和ませるためのバカなのだ。
保育所から一緒にいる俺には分かる。
コイツは人間が出来ている。
だから竹之内は小さく、しゅんとなった。
(言い過ぎたかな……)
コイツのこんな姿、いつ以来だろう………
「でもまぁ……まだ決まったわけじゃないし、な?」
「………」
「竹之内?」
「……………(ぐぅ~)」
くぐもった音が聞こえた。
心配して損した。
そこで、次の竹之内の言葉を当てて見る。
(腹減った)
「腹減った」
ビンゴ!!!
「じゃねぇだろ!!」
「あでっ!!」
俺は竹之内の尻を蹴りあげてやった。
今日の俺は調子が悪いな………
「ちょっとでも邪念があった俺の心を恨むよ………」
俺は独り言のように呟いた。
竹之内は聞いてか知らずか、へへへ、と笑った。
そこで俺は、十字路に着いていることに気づいた。
俺の家は左。竹之内の家は右。
だからここで別れることになる。
「じゃね、十夜」
「あぁ明日な」
2人は互いに別々の帰路につく。
別れ間際に、ちらっと竹之内の顔が見えた。月明かりを受けた竹之内の顔は、笑っていた。
どうやら、今日の俺は本気で調子が悪い。
アイツの策にはまってしまった。
まぁそのおかげで今は少し楽になったが………
なんか無性に恥ずかしくなって、俺は駆け出した。
家はもうすぐである。
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