「妬み」と書いて「したしみ」と読む奴ら

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「神楽さんには勉強より大事なことをいっぱい教えてもらったよ!」 僕はタオルを握り締め、今まで神楽に助けられた過去がどれだけあったか伝える。それは両の手どころでは足りない。 「あっ、ありがとうございます」 神楽さんが顔を赤らめ、別の意味を含んで顔を俯かせた。 「えっ、あっ、いや…」 僕もそれに釣られ、頬が熱くなるのが分かった。 「……」 「……」 そんな気まずい雰囲気を吹っ飛ばしてくれたのは新たな同居人だった。 「刀弥にい~さ~ん!」 廊下の端から駆け足で近づく足音と声。 「カッ、カロル!?」 わ~い、とダイブしてきたカロルを、神楽さんが慌てて引き止める。 あの一件以来、実の兄弟の記憶を封印し、僕を兄と呼ぶカロルは、底抜けに明るかった。 「カロル? 前から言っていますでしょう。あなたのような紅種が全力で刀弥様に飛びつけば、相手の骨を折りかねないと」 神楽さんが非常識なカロルに説教を始める。 カロルはいつも自分が紅種だと忘れたように僕に飛びかかってくる。 それがカロルなりのスキンシップだとは分かっているが、カロルは紅種で、その身体能力は僕の体が受け止めるにはかなりキツい。 「う~、神楽はいつも説教ばっかだ」 頬を膨らませ、不満を言うカロル。 「説教ばかりを言われることをしているのです。イヤでしたら説教をされない行動を取りなさい」 二人はついこの前まで敵意を向けあっていた間柄には見えない。 僕はタオル掛けにタオルを吊し、二人の睨み合いを止めるために間に入る。
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