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「……なんだ小春か」
傘を持つ手の主を探すと、それは俺の幼馴染みだった。
「ほら、早く立って」
歳の割に幼い顔の彼女は俺に立つよう催促する。
「ごめん、独りにしてくれ」
ここに居ればこの気持ちも雨が洗い流してくれそうな気がしてた。
「ここに居たって…どうにもならないでしょっ!」
そう彼女は俺の腕を両手で掴み、引き起こそうとする。
そこまでされるともう従わざるを得なく、これ以上は格好悪く自分でも思え
「わかったから傘させよ 服、濡れてるぞ…よっと」
そう言い立ち上がると
「龍ちゃんの方がびしょびしょじゃない」
「俺はもういいんだよ。どうせ傘なんてあっても無くても変わらないんだから…ってその『龍ちゃん』ってのいい加減止めろよ」
そういうと自転車のもとへ歩いていく
「私にとってリュージはいつまでも龍ちゃんなの」
困ったからなのか少し大きな声を背中越しに聞き「ヘイヘイ」そんなふざけた調子で返事をし自転車を起こし、押して歩き出す
右には自転車。そして左には傘を持った彼女が腕を伸ばして傘を高々と掲げている
たまにコツコツと頭に当たる折りたたみ傘の骨が煩わしく思え
「そんなにくっつくなよ 濡れるぞ」
二人の身長差から彼女が傘を持てばこうなるのは仕方なく、折りたたみ傘ともなれば尚更だ。しかも彼女の身長に関わることを会話に出すとその殆どが口論になるので他の理由を付けて傘から出ようとするが「龍ちゃんが入れなくなるでしょ」と彼女はそれを許してはくれず
「だからこれ以上濡れても変わらないし、帰ったらソッコー、シャワー浴びるから俺はいい」そうはっきり言い、傘から出て暫く歩いていると彼女はおもむろに傘を畳む
「…たまには雨に濡れて歩くのもいいね」
折りたたみ傘を後ろ手に持ち、笑顔で俺を覗き込んでくる
「風邪ひくだろ?ちゃんと傘させよ」
「これで龍ちゃんと一緒でしょ」
彼女は自分の意思が強いというか、頑固者というのか‥
「あーもぉ、勝手にしろ」
俺は呆れた顔をし、彼女は笑った
二人雨に打たれながら家に帰っていく
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