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その家とは。
アタシでも知っている、ある意味有名な家だった。
近所の子供たちが昼間っから肝試しに使うような、つぶれかけの借家。
人が住めるのか?というくらいひしゃげたあの家に、確かおばあさんは居ないはず。
おばあさんがいると言うのも、孫が来るというのも、悲しい嘘……このオジイちゃんは、独り暮らしだ。
店長はひとしきりお説教をした後で、オジイちゃんをそのまま帰そうと思っていたらしいのだが。
どうもオジイちゃんが細すぎるのと、あまりにフラフラしているのが気になってしまった(--;)
どうやらまともに食べていないようだな……。
そう感じた店長は、店舗に入っていた軽食屋でタコヤキを買ってきて、お茶まで入れ、オジイちゃんに食べるよう勧めた。
「オジイさん、タコは残しよ!
ノドに詰まるでな、気をつけてや。」
そして、このタイミングで事務所に戻ってきたアタシ。
……( ̄Д ̄;)
なんで、店長は万引きじいちゃんと仲良くタコヤキ食ってんだ!?
不思議な光景(笑)
店長、つまりうちの父親は、顔はイカツイし、ガタイも良い。
ドスのきいた低い声も手伝い、見た目は非常に怖い……
が、情にもろい♪(^^;)
この後店長は、わざわざオジイちゃんを店の外まで見送り、手をふって送り出した。
「オジイさん、あんま無理しなやぁ!」
万引き犯を捕まえない。
これは、本来は間違った行動なのだろう。
捕まえないことで、再犯を繰り返す人もいるだろう。
でもアタシは、父親の“人を見る目”を信じている。
今でもそれはかわらない。
オジイちゃんは、それからもたびたびうちのスーパーを訪れた。
もちろんあれ以降、万引きは一切していない。
たまに店長が、刺身の切れ端を集めたものや、傷物の野菜や果物などをタダで渡したりしているのも知っていた。
(いつもならパートさんにあげていたものなんだけどね)
余計なお世話ながら、アタシは少なからずホッとしていた。
淋しかったオジイちゃんの背中が、少しだけ元気になったように見えたから。
やがて、アタシがレジで声をかけると、嬉しそうに歯の無い笑顔を向けてくれるようになった。
……死ぬまでずっとね😌
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