エロスは女神

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「これはまた襲われたらひとたまりもなさそうな道だな?」  そう言って、うねる様な形で進む部隊を眺めながら愚痴るサファルト。  元々使われる事の少ないこの山岳地帯では、兵が布陣を固めたまま進める様な広い道は存在せず、何とか人が通れそうな比較的滑らかな場所を通るしか抜ける方法は無い。 「だが、仕方ありませんサファルト将軍。この道を通らねば、少なくとも行程に三日以上のロスが出てしまうことになりますから」 「と、いうことだ。だから、文句を言ってはいけないぞ?」 「トートリア候って、本当に全部この嬢ちゃんに任せっきりなんだな……?」  一人テキパキと全体の軍を指揮するシエラを眺めながら、もはや国を越えて戦友となったウォッシに話しかける。 「ああ、自慢じゃないが私は自分に興味の無いことには一切手をつけない主義なのだよ」 「なるほど、確かにそれは自慢じゃないな……」  なんとなく気の抜けた会話。それもそのはず、当初の斥候の話ではこの山岳地帯に魔軍の一団が陣を張っているとの事だったのだが、実際に来てみれば魔族どころか動物すら一匹もいないもぬけの殻だったのだ。 「んー、暇ですね。ここいらで一つ、魔軍の奇襲でも」 「何を言っているんですか、この戦闘中毒放蕩堕落貴族。本当にこんなところで空を翔る魔族の奇襲があったら一帯どれだけの被害が出るかわかっているのですかっ?」  ウォッシの軽口に、シエラがいつもそうしてきたように窘める。少し口調がいらいらしているのは先の戦闘で半数ほどの数を減らし、多少神経質になっている兵達を気遣ってのことだ。 「シエラ副長! 敵魔族の奇襲ですっ!?」 「ああっ、トートリア候が余計なことを言うからぁ!」 「私のせいかい?」  
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