エロスは女神

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「え、どうしたのお兄さん? もしかして、姉さんに会いたくないとか?」 「いや、そういう訳じゃない。ただこのままだと……」  大気が震える。風が啼き、地が軋む。底知れぬ魔力が自然を怯えさせているのだろう。何故なら、その魔力が持つ方向性があるたった一つのベクトルだから。  ああ、やべ。これ股間ていうか全身ぐっしょり。 「え、え、何これ!?」 「うあっちゃー、これはやばいな?」  段々と強まる、留まりを知らない天井知らずの魔力。その魔力に怯えているのか、俺を掴むコウリアの手ががたがたと震える。  ……落とすなよ? 「…………っ!?」  コウリアが後ろを振り向く。 そこにいるものをなんと表現すればよいのだろうか。 怒れる獅子? 逆鱗に触れた龍? そんなもの今の彼女と比べれば正に赤子のようなもの。  そう今の『魔王』サテナ=バルムントの前では。 「……小娘。貴様、中々に見事な手前じゃったのう……」  サテナが口を開く。それと同時になったコウリアの喉は彼女の今の精神状態を如実に表しているのだろう。俺なんかさっきから呼吸が出来ない。 「その翼を持って、人の身ではしようもない高々度での確保。確かにいくらこの者であってもその高度では些か面倒なことになるであろうからの……?」 ゆっくりと上げられるサテナの右腕。 「なればその二対の翼……」  一瞬の停滞。そのまま彼女の指が、まるで獲物を捕らえた蜘蛛の足のようにくいと閉じられた。 「消し飛ばしてくれるっ!!」  もぎ取るでもなくっ!? 「わわわっ、きゃーーっ!?」  周りに浮かんだいくつもの魔術が俺達に向かって飛んでくる。
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