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「こんの~っ!!」
避けるのも辛くなったのか、コウリアが放ったのは『ル』級のメジスト系魔術。それは広範囲にわたったサテナのいかづちを食らうようにして相殺する。
しかし、残念なことに、明らかにサテナの魔術の方が数において分があり、更なるいかずちが俺達を襲う。
「うわ~ん、姉さん! 僕じゃあ魔術戦は不利だよー!?」
「えいっ。
……う~ん、ちょっとこれは私も大変かも?」
先のコウリアよりも強力なユリエラの魔術がサテナの魔術を喰らう。
「……ふぅ、こうなったら全力でいくしかないわね。行くわよ、こうちゃん!」
「うん、姉さん!」
驚くべき魔術の応酬。すでにこの付近の空はサテナの魔力によって狂わされ、さっきまでの晴天が嘘だったみたいな暗天だ。
これほどまでの戦いは歴史上でも類を見ないものだろう。まさに魔族の頂上決戦といったところか。
だからこそ、
「いや、だからっつっても、俺を落として放置ってのもどうかと思うんだけどな?」
ただいま、俺、よう分からん地方に投下中。次の任務は『簡単にできる三分クッキング ミートソースオン地面』の作成に違いない。
「まあ、そんなこと考えてる程の余裕は存在しない、と」
迫り来る地面を眺めながらあれやこれやと考えてみる。しかし危機的状況に陥った時の意外と冷静なんだねパターンも、画期的な俺救出方法を導き出すには全く至らない。
「は~……、せめて空でも飛べれば、ってどっちにしろ駄目か……。
……しょうがない」
いい感じに禍々しい俺の相棒を鞘から抜きだす。相変わらずその輝きは黒曜石を思わせるほどに鋭利で美しい。そしてこの状況を打破してくれるこいつは本当に頼もしい事この上ない。
「どうか怪我しませんように……! ほりゃぁ!!」
前後左右直下、そのすべての方向に“咆哮”を放つ。山が削れ、大地は掘り返され、人工物を吹き飛ばす。人がいないことを願いつつも、それを気をつける余裕はないからご愁傷様。それによって生み出された、落下方向とは逆方向のベクトルが多少の振動とともに俺の落下速度を少しずつ減少させていく。
「うおおおぉぉっーーーー!」
俺は何度“咆哮”を放っただろうか? もう地面との距離が目視で分かるようになったところで俺は最後の一発をくそったれた地面にぶちかまして、着地の衝撃に備える。
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