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そういう睡魔の片割れの顔には確かに笑顔が浮かんでいる。しかしその額には明らかに疲労を示す汗。
つまり彼奴の笑顔は浮かんだものではなく、貼り付けただけの紛い物……。
「ふぅ…まあ、よい退屈しのぎではあった」
やはり、この世界で妾と立ち並べるのはあの者しかおらぬ。
あの者……、
「なっ、ルシファはどこだ!?」
「あれ、落としちゃった?」
睡魔の小娘の言葉に眼下を睨む。そこには何か考え事をしながら自然な等加速運動で落下していくあの者の姿。
久方の娯楽に興じすぎていたせいであの者の事が頭から抜けていたらしい。
「ちぃっ!」
まずい、あの者は飛行の魔術が扱えなかったはず。従って、あの者にはこの高さから助かる術がない。
それだけ考えた妾はすぐさまあの者の所へ駆けようとした。
しかし、
「ぬぅぅっっううあぁっーー………っ!!」
彼とその剣の『咆哮』。まさに怒り狂う鬼神。
手当たり次第に放たれる破壊の鉄槌は山を消し、地形を変え、星を砕く。これ程までの怒りを妾は見たことがなかった。いや、これ程の力を持っていることを知りながら、妾には配慮が足らなさ過ぎたということ。
「なんたることだ……!」
自身への怒りが全身を焦がす。しかし今はそんな事を悔やんでいる場合ではない。この破壊が終わり次第、全ての謝罪をしなければならぬ。たとえこの身にいかなる仕打ちを受けようとも、あの者に捨てられる様な事だけは避けねばならない。
そう考える内にもこの星はかの者の怒りを受けその身を砕かれていった。
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