0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
アーン、アーン…………。
(子供の泣く声?)
彼女はぼんやりとした意識の中でそれを聞いた。
なんとなく意識をそちらに向けると突然パッとスポットライトが当たったかの様に小さな姿が暗闇の中から浮かび上がった。
それは声を上げて泣く一人の幼い少女だった。
彼女はその赤い髪や褐色の肌に見覚えがあった。
(なんだ、ガキの頃のあたいじゃないか。)
たしかにそれはまだ記憶も定かでない頃の彼女自身の姿であった。
彼女は幼く無力で、本当なら一人でゆける年ではなかった。
しかし彼女にはすでに親はなく、温かい保護の手を差し延べてくれる大人もいなかった。
だから、生き残るためには自分でなんとかするしかなかった。
彼女は木のうろで眠り、蛙やトカゲを捕まえて飢えを凌いだ。
いつもひもじい思いをしていたが、それでも彼女はなんとか生きていた。
しかし、無慈悲な冬将軍がその手を伸ばし始めると、その小さな命の火はますますか細く弱いものになっていった。
つのり行く寒さは森から獲物の姿を徐々に少なくして行き……彼女はここ数日の間、水しか口にしていなかった。
幼い彼女には自分の行く手に待ち受けるものが何なのか、はっきりとは分からなかった。
しかし、漠然とした恐怖がいつしか彼女の心を捕らえるようになっていた。
だから、彼女は泣いた。
もう空腹で何の力も残っていなかった彼女に出来たのはただただ延々と大きな声を張り上げて泣き続けることだけだった。
「ねえ、どうちたの?」
突然かけられた舌足らずな幼い声に驚いて彼女は顔を上げた。
そこには、猫耳の形をした帽子をかぶった幼い少女がいた。
少女は不思議そうに彼女の顔を覗き込んでいた。
「どうちたの?ぽんぽんいたいの?」
彼女は少女の言葉に黙って首を横に振った。
「ふ~ん。」
少女はそう言いながら小首をかしげた。
その時、遠くからその少女を呼んでいるらしい声が聞こえて来た。
「こっちよ~!おとうしゃん!」
少女はその声のした方に向かって大声で叫んでから、再び彼女の方に向き直った。
最初のコメントを投稿しよう!