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「……何」
突然頬に触れられた事に、青年が訝しげな声を投げかける。
「あ、や、何て言うか……つい?」
触れた少年は、言われて初めて気付いたようにあたふたと手を引っ込め、うつ向く。
ベッドの横に座り込んだまま、少年は所有なさげに視線を漂わせる。まるで、そのベッドに横たわる青年を見まいとでもしているようだ。
「変な奴……」
呆れた風に呟く青年。その声は吐息混じりで熱っぽい。よく見れば触れられた頬も上気し、呼吸も苦しげで荒い。
「もう、いいから」
しばらくの無言が続いた頃、青年がそろりと頼りなく手を伸ばす。伸ばされた手は、少年の肩へと置かれた。
視線を向けていなかった少年には不意打ちだったのだろう。触れられた瞬間、微かに肩が跳ね上がった。
「……あ」
驚いた反動で交わった視線に、少年は息を呑む。
普段は眼鏡で隠された素顔。
強気な光を放つ瞳も、今は弱々しく濡れていて。
薄く開いた唇からは熱い吐息が溢れる。
汗ばむ首筋に、浮き上がる鎖骨。
少年の瞳が、普段は見れない青年の姿を映し出す。
「先生……」
ベッドの軋む音が響く。
片手を青年の顔の横へつく。
ゆっくりと、青年へ落ちる影が大きくなる。
風に消えた落ち葉が、果実の姿を露にした。
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