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「おー、いて」
嵐はヒリヒリする後頭部をさすりながら、少女について歩いていた。
「あんたが話しを聞いてなかったのがいけないんじゃない」
一方、少女の足取りに先程の嵐に関しての罪悪感は見て取れない。
先行して歩く少女に、嵐はついて歩いている。
「なぁ、おまえ誰だ?此処どこだ?さっきの奴ってやっぱ熊か?」
「1個ずつにしなさい」
ガツンと、再び少女の鉄拳が嵐の頭に降って落ちる。
「すぐ殴んなよ!」
涙目の嵐。
最早そこに男としての威厳はなく、少女について歩くものの、少し距離を離して歩いている。
当然、先程までの少女に対する嵐の印象は変わっていて、すぐ殴ってくる凶暴な可愛い女の子になった。
『可愛い』を外せないのは、やはり男として仕方のない事なのか。
「あたしはアリス。此処は《雨の森》。さっきのって、モンスターのこと?」
「何だよ。1個ずつって言ったくせに全部答えてくれてんじゃん」
唇を尖らして、先程の鉄拳の無意味さを訴えた嵐だったが
「悪い?」
少女の睨みと握られた拳に自然、頭を下げていた。
「いいえ、ありがとうございました!」
「あんたの名前は?」
「え?」
嵐は後頭部に投げかけられた言葉に、顔をあげる。
「あんたの名前!
女の子に名乗らせといて自分は名乗らないつもり?」
「ああ、オレは天宮 嵐」
「嵐……変な名前」
そう言い捨てて少女――アリスは興味なさげにすたすたと進んでいく。
「名前は不可抗力だろ……」
その後ろで、手を地面に、膝も地面つきうなだれる嵐の目から、きらりと涙が零れた。
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