アトリエ

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9月26日 AM10:56 薄暗く狭い階段を降りてゆく。 どうやらその『冷凍庫』は地下にあるようだ。 焦茶色の煉瓦造りの階段は、上の部屋に比べてかなり汚れていて、生臭い血の匂いと肉の腐った匂いが入り交じり、吐き気をもよおしてしまった。 キーダーも同様に暗く沈んだ表情でハンカチで口を押さえていたが、ヤマディーノのは好奇心に満ちた目でリズムよく階段を降りてゆく。 薄汚れた階段に嫌気がさした頃ようやく階下に着いたようだ。 ほんの一分が一時間に思えた。 着いた〔そこ〕にはおよそ八体の女性の死体が、様々な拷問器具に掛けられ無惨に殺されている。 作りかけの人間椅子の側には切り刻まれた手足や、恐らくは〔彼〕の芸術的センスにそぐわなかった、顔が幾つか鈍器のようなもので潰されていた。 『ワーォ。此所は犯人のアトリエか?』とヤマディーノ。 彼には昔から少し感覚がずれているような所があった。 『しかしまぁ、よくもこんな人数をさらって来れたもんだ。ここいら一帯の家出少女や行方不明者の殆どはここだろうな。犯人は複数か?』推理を始めるキーダーに私は反論する。 『いや、犯人は確実に一人だ。これだけの人数をさらう手口はそうそう思いうかばないが、犯人には強い征服欲と自分自身に確固たる芸術センスがあるようだ。更に、犯人は女性をさらう時以外はあまり外に出ないようだ。恐らく仕事はしていないだろう。かなりの財産家なのか、殺した女の臓器を売っているのか……。典型的なカニバリズム性犯罪者の可能性も捨てがたいがな。』 両腕を皮のベルトに縛られ吊されている女の腹部切断の傷跡をなぞりながら私は続けた。 『犯人は医者の心得があるな。医大に通っていたか、モグリの医者だったか………。恐らく前者だろう。ここの所有者は誰なんだ?調べはついているのか?キーダー?』 『あぁ、所有者の調べはついているよ。リベルト・ミットキャストという人物だ。単純にこいつが犯人かと思ったんだが、どうやらそれはないらしい。』キーダーは顔をしかめる。 『どういう事だ?』手袋を着け直す私は思わず彼の方に目をやった。 『さっきリベルト本人と思われる遺体が見つかった。鑑識から聞いたが死後一年八ヶ月前後のようだ。ミイラになってたよ。』
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