ARt

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さらに同時刻。 ヤマディーノ。 『ふぅ………。まさに芸術…………か。』俺は一日がかりで運び出された死体で埋め尽くされた霊安室から、助手数人と彼の芸術作品を運び出していた。 運び出している死体は臓器は全て抜き取られていて、顔には鉄の杭が打ち込まれ、背中には恐らく鴉のものと思われる羽が縫い付けられている。 全身には樹脂のようなもので腐らないようにコーティングされているようだ。 性的暴行を受けた後が生々しく刻まれている。散々玩具にされてから、こんな無惨な姿にされたのだろう。 真夜中のじっとりとした曇り空が雨を連れてきた。昼の太陽に焼かれたアスファルトが少しづつ冷されていく。 ベッドに静かに寝かされた彼女を検死する。助手にメスを催促するが、やはり目の前の死体のあまりの現実離れた姿にアテられて反応が鈍い。 無理もない。こんなのは見た事ない。バラバラのや、死姦されたのはイヤと言う程見て来たが、ここまで人間をただの「素材」として見たのは初めてのことだ。 今まで味わった事のないメスの感触に少し不謹慎ながら興奮してしまった。 バリバリッという音がマスクごしの吐息しか聞こえない手術室に響き 驚くのは 見れば見る程彼の縫合技術の高さだ。 俺は解っていた…………。 この34体以上の検死データから割り出せる犯人像は漠然とした彼のセンスと、人間の命を塵ほども顧みない精神だけだということが…………。 彼には悪魔という言葉がよく似合うよ。 各々の眠れぬ夜は薄笑いを浮かべた太陽に、紫色に彩られ明けてゆく。 そして安住の闇を剥ぎ取られた怪物は安穏とした昼を貪り始める。
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