紅の葉

3/6
前へ
/115ページ
次へ
あれは…季節の変わり目。 前日よりもギュンと気温の上がった朝。 前日から嫌な感じはしていた。 でも、病気ではないし休む訳にもいかず、いつもより重い身体を引きずる様に駅に向った。 ホームに着くと、すぐに電車が滑りこんで来た。 人波に飲まれる様に乗り込む。 満員電車。 嫌な汗がでる。 上手く動けなくて、“安全地帯”が確保できず!人の波に飲まれ電車の連結部分の開いたままの扉の“レール”の上で動けなくなった。 頭ではぼんやりと、“ヤバい”なぁと思う。 でも、どうする事も出来ずに電車は走りだす。 次の駅のアナウンスが流れた時。 …来た。 一気に視界が暗くなる。 ガタタタン 電車がカーブに差し掛かり傾く。 それに合わせて、開いていた扉がぐらっと動き、閉まってくる。 身動き出来ない。 窮屈で手も出ない。 ぶつかる!! 思わず目をつぶる。 ガシャン!! 激しくぶつかる音。 でも痛くない。 恐る恐る目を開くと、狭い視界のなかで、紅が見えた。 「あんた、大丈夫?」 低い声が背後の高い位置から聞こえる。 緩慢な動きで見上げ、頷く。 この人が近くに居るなんて…気付かなかった。 「…全然ダメだろ。」 グイグイと腕を引かれ、気付くと駅のベンチに寝て居た。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加