序章

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「………何だ?」 寝室に置いてある何かが落ちたにしては、物音が大きい それ、以前に“自分”しかいないはずなのだから物音がする時点でありえない。 誰か………いるのか?… 警戒するように隣の部屋のドアノブを握りしめ、慎重にゆっくりとドアを開く ………泥棒だったら危ないよな… 自分の身の危険に今更ながらに、気付くが時すでに遅く足は一歩前へ動いていたが、 自分の意識は目の先にあるものへ一瞬にして変わった。 寝室からベランダに繋がる窓は全開に開き、白いカーテンは夜風に煽られはためき、 そして、ぽっかりと淋しげに輝く満月が見えた。 しかし、息を呑み込みジッと先を見つめる自分の目にはそんな光景映らなかった。 最初に目に飛び込んで来たものは、 艶やかな、赤―― そして、その赤を纏いきらびやかな色彩の布を何重にも重ねた着物を着た、冷たい床へ横たわる人の姿に 自分の統べての意思も感情も捕われていたからだった…
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